散策

ホテルの部屋で、くつろぎながらこの後どうするか考えていた。
イツコさんの携帯電話には相変わらず繋がらなかったのでレースの詳細な日程や
現在の状況を知ることはできなかった。
ちなみに携帯電話の設定は間違ってはいないようだった。その証拠にマッサーさん
の家族には電話が通じた。(もっとも家族に電話が通じたところでマッサーさんが
罵声をあびせられただけだったが・・・)

とにかく連絡がとれない以上自分たちで何とかするしかない。
まずはモロカイ島へ渡る手段はないのか調べることにした。
着替えるとホテルのロビーにある観光案内所へ行った。
そこには現地人の方らしき年配の女性が座っていた。
日本語の話せる方なのでいろいろと詳しいことも聞けそうだ。
ところが私たちがモロカイへ渡りたいと言うと不機嫌そうな顔をしてそんな方法は
ないときっぱり言われた。
事情を話し小型の船をチャータしたいのだと伝えたが、そんなことは地元の人間ぐらいしか
できない。どうしてもと言うなら’もぐり’のガイドでも探すことだと言われた。
こちらに好意をまったく感じられない、ものの言い方だった。
ここにいても有力な情報は得られそうもないと思い町の中を探してみることにした。

「なんだろうね。あの態度は?」
ホテルを出ると私はマッサーさんに言った。
「よそもんが来て面倒なことになるのが嫌なんだろう。」
「それにしても、もうちょっと言い方があると思うけど。案内所なんだからさあ」

 釈然としないまま私はツアー会社の現地案内所へ向かった。
ワイキキ近辺のホテルにはこの現地案内所があり、いろいろとサポートをしてくれるのだ。
案内所にいくと日本人スタッフの方がなじみのある対応で出迎えてくれた。
しかし、モロカイへの船の手配はやはり難しいということだった。
仕方なくモロカイへ行くのはあきらめて、ゴールで出迎えることにした。

 さてモロカイ行きはあきらめたとして、この後どうしよう?
正直何も考えてこなかったので現地でのこともまったく調べずに来てしまっていた。
マッサーさんにしてもそれは同じだった。唯一ローカルさんからサーフスキーのレンタルが
あるとの情報を得ていたので、案内所の方に聞いてみたがまずサーフスキーが何なのか
伝わらなかった。
一生懸命説明するのだが、どうしてもシーカヤックとの違いを理解してもらえなかった。
案内所の方も申し訳なさそうな顔をしていたが仕方のないことだと思った。
数年前ならシーカヤックすら出てこなっかたろう。
何年後かにはサーフスキーも、もうちょっとメジャーになっているだろう。たぶん。

 ハワイに着いてからつまづきまくりだが、とりあえずお腹も減ったし、昼飯でも食いながら
考えるとしよう。
どこで食事をするかだが先ほどのアロハタワーで食事ができるクーポン券があるのを思い出した。
ツアー会社でもらった地図を見ると歩くには距離があるのでバスで行くことにした。
このバス、ツアー会社の運営しているツアー客専用の路線バスで町中を走っていて、
しかも無料なのだ。
先ほどの案内所といい至れり尽くせり。これで10万円はお得!みんながハワイに行くのが
わかるような気がしてきた。

 停留所で待っているとほどなくしてバスがやってきた。
ツアー客の証明カードを見せて乗ろうとしたら運転手にそのカードではだめだと言われた。
なぜだかわからなかったが、仕方なくバスを降りた。しばらくすると次のバスが来たが
また乗車拒否されてしまった。
 なぜだろう、停留所の看板にはたしかにJTBって書いてあるの・・に? ん?!
JCB・・・地図をよく見ると停留所の場所も違っていた。
「ダッチ君何しとるの?違うがね。」マッサーさんが言った。
「あんたが言うかね?さっきまでここで間違いないって言ってたくせに!」
お互い罵りあいながら停留所に向かった。

 今度はちゃんとバスに乗ることができアロハタワーへ向かっていた。
このバスはちょっと変わっていて外観は木製で壁はなく落下防止の手すりがあるだけ、
シートは木製のベンチが外側をむいて取り付けられている。
とうぜんクーラーなどないのだが案外これが快適なのだ。
季節のせいか意外と涼しく。湿度も低く風も心地よかった。
ただ信号待ちの時は、なんだか見せ物になっているような気分だった。

開放感たっぷり
のバス。
到着して間もない
せいか疲労の
色が伺えます。

 ようやく目的地のアロハタワーに到着した。
ここはショッピングモールのようなところで土産物屋やレストランなどが隣接していた。
我々は無料クーポン券の使える何軒かある店の中で海に面した店に入った。
「何がいいかな」とマッサーさんが聞いてきたので、
「無難にロコモコでいいんじゃない。」と適当に答えておいて自分の食事を決めるのに
集中した。私はハンバーガセットとビールを注文した。
やがて料理が運ばれてくるとマッサーさんはロコモコはちょっと自分にはくどいとか
ハンバーガセットの方が良かったとか言ってきたが気にせず食事を続けた。
オープンテラスから海を見ながらビールを飲む。うーん至福のひと時だなあ。
 断っておくが私が冷たいのではなく、この御仁との付き合い方はこれが正しいのである。
ましてやまだ初日、あと4日も一緒に過ごさなければならないのだから。

 お腹もふくれたしこの後どうしようか。
「マッサーさん、どこかお勧めの場所とかはないの?」
じつはマッサーさん、ハワイには以前来たことがあるのだった。しかし返ってきた返事は
「知らん。もう昔のことだでよう覚えとらんわ。」だった。
「何それ!じゃあハワイまできて何にも思い出とかないの?」
「免税店で娘にカードを奪われて散々買い物されたことは、よーく覚えているけどな」
私は、もうそれ以上何も聞かなかった。

2008/5/16/16:00頃(ワイキキビーチ)

 ハワイ、海といってまっ先に思いつくのはワイキキ!そうだワイキキに行こう!
国内にも○○のワイキキビーチと冠のつくところは数多くあれどここには本家本元がある!
初めてのハワイだし、通ぶらずにまずはオーソドックスに攻めてみよう。
ホテルからも近いし、私たちは例のバスに乗り込みワイキキビーチへ向かった。
バスを降りると高級リゾートホテルの間を縫って海岸に出た。
ここがワイキキビーチか。意外とこじんまりとしているというのが正直な感想だった。
テレビでみるのとは何か感じが違っていた。砂浜の幅も狭いような気がした。
ただ海岸線は長くかなり歩いても砂浜が続いていた。
ある程度歩いて振り返り海岸線にホテルが建ち並び一番奥の岬にダイヤモンドヘッドが
見えたとき、ああ、このアングルがよく見るあの景色だと納得した。
 物足りなさを感じたもうひとつの要因はビーチにいる人たちだった。
派手なビキニを着たお姉ちゃんたちがところ狭しと甲羅干して、わきにはトロピカルジュース
かなんかを入れたでっかいグラスが置いてあってみたいな私が勝手にいだいていたハワイの
イメージとは若干違っていた。
確かにビキニの人はいる。でも、ボン!、キュ、ボン!な体系ではなく
ボン!、ボン!!ボン!!! なのだ。しかも年配の方もみえるようだった。
日本ではビキニを着ないであろう体系や年齢の方たちが人目をはばからず甲羅干しを
している姿は落日の背景とあいまってなんとも・・・
ただ、これは羨ましいことでもある。変に世間体ばかり気にして着たいものも着れないんじゃあ
仕方ない。同じような体系で昼間に街中を歩いていたタンクトップにショートパンツの人達も
実に堂々としていた。
いや、別に急にフォローをいれた訳ではなく、本当に。
ここにいると最近出っ張りはじめた自分のお腹のことも気にならなくなってきた。

思い描いた光景は明日以降の楽しみにとっておくとしてまだ夕飯までには時間があるしどうしようか。
海岸線をさらに西側へと進むと大きないかだが見えてきた。これに乗ってクルージングが
できるのだそうだ。日も暮れかかってきたしクルージングにはいい時間帯だった。
マッサーさんも以前に乗った記憶を取り戻し、お勧めだと言ってきた。
この時間から他にすることも見つからないし、乗ってみることにした。

これから
後ろのいかだに
乗り込みます。

 15人乗りのそのいかだに乗り込むとエンジン音をたてて沖へと向かったがやがてエンジンを停止し、
帆のみで航行し始めた。波を切る音だけでスイスイとすべるように進むいかだ。動力船では絶対に
味うことのできないこの感覚。最高!
 そのうちガイドが何やら説明をはじめた。何かの注意だろうが英語なのでわからなかった。
最後にプラスチックのコップをとりだして酸素マスクを口にあてるまねをした。
これには船上で笑いが起こった。これくらいなら私にも理解できたので同じタイミングで笑えた。
 一通り説明が終わると飲み物が配られた。ソフトドリンクはもちろんビールまで出てきた。
しかもどちらも飲み放題!手すりがあるとはいえ、いかだ。しかもみんなライフジャケットを
つけていない。
大丈夫なんだろうか。そういえば乗る前に何か契約書のようなものにサインしたっけ。
きっと落ちて死んでも一切責任を問いませんとか書いてあったのだろうな。さすがは自己責任の国だな
でも、こんな最高のシチュエーションで飲まないわけにもいかず、まあ落ちない程度に飲まして
もらおうと缶ビールのフタを開けるのだった。

ワイキキビーチ沖を
無音ですすむいかだ
の上で飲むビール。
くー、最高っす!

 夕日こそみえなかったが風がここちよく無音で進む船のデッキのうえで一杯やりながらハワイの景色を楽しむ。
実に夢のようなひと時だった。海外旅行はこうでなくては。
 途中もう一隻の”いかだ”と並走する場面もあったが同じぐらいの大きさであろうあちらの船には軽く
見積もっても30人ほどが乗っていて、いきなりこちらにむかってズボンを下げて尻を見せてくるカップルが
いたりとテンションも異常に高かった。同じ料金なら、こっちのいかだに乗れて本当によかった。

船首で撮影。
気持ちのいいクルージング
でした。

 クルージングをたっぷり満喫してホテルに戻ったときには20:00をまわっていた。
ハワイ初日、夕飯は何を食べよう。するとマッサーさんがステーキを食べに行こう
と提案してきた。どうやら目をつけていたステーキハウスがあるらしい。
私もその意見に賛成した。そのステーキハウスはアラモアナ・センターにあった。
歩いていけない距離ではなかったが、例のバスがあるのでまた利用させてもらった。
実に楽チンである。

2008/5/16/21:00頃(アラモアナ・センター)

出た時間が遅かったせいもあってアラモアナ・センターに着いたときは開いている店はごく限られていた。
センター内も人がまばらだった。
 目指すステーキハウスは3Fのはずなのだが、どこにもみあたらなかった。
広いセンター内を右往左往し、いいかげん空腹の度合いもピークを迎えていた。
あきらめて別の店に入ろうとしたときにやっと案内の看板を見つけた。どうやら入口は2Fあり
そこからエレベータで3Fにあがるようだった。ややこしいなあと思いながらもそのエレベーターに乗った。
エレベータの中に入って驚いた。内側一面金色なのだ。
なんか成金趣味だな名古屋の人が経営しているのかな?それよりエレベーターがこんなだと、店のほうも
さぞ立派だろう。もしかして正装じゃないと入店拒否されるのではと心配になってきた。
何せいつもの調子で出てきたので短パンにTシャツだった。ハワイではアロハやムームーは
正装扱いしてくれると書いてあったが自分の今の格好はかなり微妙だ。
そのうちエレベーターの扉が開き予想通りの立派な店内が眼前に現れた。
ドキドキしながら店のカウンターの前を通り過ぎたが何も言われなかった。
 ほっとしたのもつかの間、すぐにオーダーをとりにやってきた。(当然か。)
長身で品のよさそうなこの老紳士風のウェイターさん日本語が話せないようだ。
メニューは日本語用を持ってきてもらったのだが細かいことはわからなかった。
とりあえずセットメニューを注文した。そうするとライスかアスパラガスかと聞いてきた。
ステーキの付け合せのことだろうと思ったがライスって?アメリカじゃあライスは野菜扱い
なんだなきっと。野菜のかわりにライスを食べることはできないので私はアスパラガスを
注文した。マッサーさんは何を思ったのかライスを注文した。
この選択が後に大変なことになることを我々はまだ知らなかった。
 次にウェイターさんがトレイの上に何種類かの生肉をのせて現れた。
どうやらこの中から肉を選ぶらしい。Tボーン、ロース、サーロインこれぐらいは私でも聞き取れる。
骨つきは食べるのが面倒そうだし、せっかくだからここは奮発してサーロインに決めた。
 しばらくするとメロンパンを二つ重ねたぐらいの大きさのパンが一つ運ばれてきた。どうやら二人分らしい。
そのパンには玉ねぎが練りこまれているらしく何もつけなくても美味しく、また焼きたてなのがさらに
玉ねぎの香ばしさを引き立てていた。
「このパン、結構いけるね」腹ペコの二人はビールを飲みながらそのパンをぱくついていた。
 パンを半分ほど食べた頃メインディッシュのステーキが運ばれてきた。
その大きさたるや!なんじゃこりゃ!
幅と高さが5センチほどで長さは20センチぐらいはあるだろうか。
ちょっと小ぶりの薪かと思った。軽く見積もっても500グラムはあるだろう。
 確かに腹は減っている、しかし食べきれるだろうか?
先ほどまでパンを食べていたことを後悔しはじめていた。
 まずはナイフで切って食べ始める切り口から血が少しにじみ出てきた。ミディアム・レアで
お願いしたのだが日本だとレアぐらいの焼き加減であった。
これだとレアは表面をあぶっただけの生肉だな。
 しかし、もともと肉を焼き過ぎないタチの私は今回の焼き加減はちょうどよかった。
切り口は周りは良く焼けて身がしまっていて中心はまだピンク色をしていて柔らかい。
適度な歯ごたえもあり、味も塩コショウを中心に味付けられたシンプルなものだが
それがまた肉のうま味を引き出していた。
 これなら完食できそうだそう思ったとき。それは姿を現した。
先ほど頼んだアスパラとライスだ。アスパラはバターソテーにしたものが10本ほど皿に盛られていた。
一人前の付け合せにしてはちょっと量が多いなと思う程度だったが、マッサーさんの頼んだライスは
グラタン皿のような皿にアイスクリームを盛り付ける器具でも使って盛り付けたのだろうか、雪だるまが
折り重なるような感じでライスが積み上げられていた。
「これ、一人前だよね?食べられるの?」ステーキだけでも厳しそうな表情していたマッサーさんに
聞いてみた。
「無理に決まっとるがあ。何だこの量は?ふざけてるのか?」
あまりの量の多さにマッサーさんは怒をあらわにしていた。
「ダッチ君あげるで食べやあ」とマッサーさんが薦めてきたが、私だって自分の分を食べるので精一杯。
とりあえず真ん中に置いておいても邪魔なのではじによせようと片手で皿を持った・・が上がらない。
手首だけでは無理だ。しっかりと持ち直して皿をはじによせた。
 しばらくすると、先ほどの老紳士がテーブルにきて、「満足いただけましたか?」みたいな事を
聞きに来たので私は無難に「good!」と答えた。しかしマッサーさんは「多すぎる!」と
クレームをつけていた。
 わざわざ言わなくてもいいのにと思ったが、どうせ日本語で言ってるだけだから通じないからいいかと
思い、放っておいた。
 その後、私は肉、アスパラガスともに完食したがマッサーさんはライスはもちろん、肉も4/1ほど残して
いた。 「食べれないようになったなあ」とマッサーさんは言っていたが、マッサーさんの年でこれを完食できる人
はいないんじゃないかな。逆に食べすぎだよ。
 帰りはバスの時間が終わっていた事と少しでも今取ったカロリーを消費するためにホテルまで歩いて帰った。
部屋に帰ると一日の疲れがどっと出たのか。知らない間に眠ってしまった。

(Written by ダッチ)



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