下見
2008/5/17
ハワイでの朝を迎えた。
昨夜の過剰カロリー摂取の影響が心配されたが、環境変化にも負けずどうやら
私の胃は職務を遂行したらしく胃がもたれたりはしていなかった。
「朝飯でも食べにいきますか。」
「そうだな。」
マッサーさんも自分が食べた分は消化したようだ。
ホテルのロビーに降りてフロントとは反対側に目を向けるとレストランがあった。
入口にはモーニングメニューの書かれた黒板が立てかけてあった。
英語で書かれていて詳細はわからなかったが、何とかエッグにパンケーキとか
かろうじて読みとることができる単語でファミレスのモーニングメニューに
名を連ねているものがセットになっていることは想像できた。
「ここでいいよね。」
異論はなかったので店の中に入った。
席に案内されるとポットをもったウェイターが現れた。
大きなカップにコーヒーを満たし終わると、オーダーを聞いてきた。
コーヒーはお冷みたいなものらしい。でもタダではない。
名古屋の喫茶店のようなモーニングサービスは期待していけない。
セットメニューはスクランブルエッグ、ベーコン、ウィンナーの3種類があった。
私はベーコンのセットを頼んだ。
外を見ると庭があり、そこにもテーブルが置かれていた。
その木陰の席でも何組かの客が朝食を楽しんでいた。
今日もいい天気になりそうだった。
明日はゴールでイツコさんを出迎えなくてはならないから遊べるとしたら
今日しかない。
昨日はちょっとスタートでつまづいた感があったが
今日は思いっきりハワイの海を満喫するぞ!
やしの木がズラーと並んでいるビーチには派手な水着をきたお姉ちゃんたち
(元じゃなくて現職)が大勢甲羅干ししていて、そのわきには原材料が何か
わからない色したトロピカルドリンク。
これを観ずしてハワイを語るなかれだ!
期待に胸ふくらむ私の心は今日の天気のようにどこまでも高く澄み切っていた。
するとマッサーさんが外の通りを指して
「あれは何だ。」と聞いてきた。
ココナツシロップをかけたパンケーキをほうばりながら私は振り返り外を見た。
するとそこには何百、何千という人達が行列を作ってみな同じ方向に向かって
歩いていた。何かイベントでもあるのかな?
気にはなったがあれが何なのか聞く英語力もないのでそのまま朝食を済ますと
部屋に戻った。
遊びにはいきたいが、まずは明日のゴールの場所を確認しておかねばならない。
「ハワイカイ」というところらしいが地図で調べてみるとなんとも微妙な距離だった。
歩いていくにはちょっと遠っかった。
「レンタカーを借りたほうが無難だな。」
「そうですね。」
珍しく意見が一致した。
レンタカーを借りるには旅行会社の案内所のあるホテルに行かなくてならい。
一番近いワイキキのホテルへ我々は向かった。
外に出るとあの行列がまだ続いていた。どやらら我々が向かう方向と同じらしかった。
向かう方向が同じだから一緒に歩くしかなく、自然にこの群れに同化していった。
街中の人ごみと違い皆が同じ方向に向かって歩いているので人数のわりには
ストレスなく歩くことができた。それにしてもすごい人数だな。何があるんだろう?
「いったい何なんだろうな」
「さあ?さわやかウォーキングじゃないですよね。」
よく見ると揃いのTシャツをきた人たちがいる。背中に何か書いてあるが悲しいかな
意味がわからない。
街頭からは声援が送らてきた。我々は無関係なんだけどなあ。
そんなことを思っているとチェックポイントらしきものが見えてきた。
そして通過する際に係り員と「ヘイッ!」とか「ヤー!」とか叫んでハイタッチ
をしている人たちを何人か見かけた。(朝からテンション高けぇーな)
テレビ局の取材もきていてとにかく大きなイベントの真っ只中に飲み込まれて
しまったことは間違いなかった。
やがて目的地のホテルが見えてきたので我々は列から離脱した。
一体あれは何だったのだろう?
ホテルのレンタカー受付でマッサーさんが手続きをしている間私はロビーの
お土産物屋を物色していた。マッサーさんと違い後ろめたい思いでハワイにきていない
私は韓国の携帯ストラップ(モロカイ外伝2参照)以外特にお土産の要求もされていないし
買っていかなくてはならい人もいなかったが3歳になる姪っ子には何か買っていって
あげようと考えていた。
ハワイらしくて実用的なものということでムームーを買うことにした。
実は事前に妹に好みを聞いておいた。その調査報告では色は赤系、ひらひらが
ついたものがお好みとのことだった。
私は発注されたものを探し始めた。すると店員が寄ってきて
よそよりウチのほうが絶対にモノがいい。ウチで買いなさい。と
お決まりの常套句を並べ立てた。
まだしばらく滞在しているからまた後で来ます。とこちらもお決まりの文句で返す。
国内外を問わずこの手の客引きには辟易してしまうが、一つ有益な情報を得ることができた。
中国、ベトナム製は勿論、MADE IN USAも本物とは言えないそうで、本当のムームーは
MADE IN HAWAIIということだった。
やがて別の客が入ってきて店員がそちらに気をとられているスキに店の外へ出た。
受付に戻るとマッサーさんが私を呼んだ。
「何?」
「ダッチ君も免許証出して。」
「何で運転手以外もいるの?」
「いや運転手だけだけど。」
「ならマッサーさんだけでいいじゃん。料金も上がちゃうし。」
半分冗談で言ったつもりだったがマッサーさんは
「何を言っとるの。早く出しゃあ。」と
真顔で私に免許の提示を求めてきた。
うまくいけば助手席でビールでも飲みながら海岸沿いをドライブできると思ったのだが
そうはいかなかった。仕方なく免許を出して書類に必要事項を記入した。
レンタカーショップまで車で送ってくれるということなので我々はホテルのロータリーで
待っていた。するとマイクロバスとワンボックスの中間の大きさの車が横付けされた。
観音扉をあけて後部座席に乗り込む。車体も大きいがそれに見合ったエンジンも搭載されて
いるらしい事は余裕のある発進から推して図ることができた。まさにアメ車。
車は見覚えのある場所に我々を運んできた。レンタカーショップの向こう側には
宿泊しているホテルがあった。なんとホテルのすぐ裏が店だったのだ。
無駄足だったように思えるが申し込みはあそこでしかできないのだからしょうがない。
たまたま泊まっているホテルのそばに店があっただけのこと。
そのかわり返却はこの店でいいのだから店に返却してそのままホテルに歩いていける
のだからむしろ運がよかったというべきであろう。
鍵とナビを受け取り車に向かった。DOTCHとか書いてあったと思う。アメリカ製の
車のようだが重厚というかボリュームのある車体だった。セダンなのだがトランクは
日本車の下手なツーリングワゴンよりも容量があった。内装も悪くない。
「使い勝手がよさそうな車だね。」
「ああ。」
運転席のマッサーさんも同じ感想を持ったようだ。
私は助手席でナビの操作をしていた。
ナビと一緒に受け取った地図には主要な場所が書かれていてそれぞれに7桁の数字が
書かれていた。地名を入力する変わりにこの番号を入力すれば目的地がセットできる
仕組みだ。実に便利である。
最初の目的地であるハワイカイだがリストには載っていないなんてオチはないだろうな。
一瞬不安がよぎったが、ちゃんと地図に載っていた。
早速番号を打ち込む・・がなかなか反応しない。
何度かぐいぐい液晶パネルを押してやっと目的地をセットできた。
「どうしたの?」
ナビ操作にてこずっている私をみてマッサーさんが聞いてきた。
「このナビ反応が悪いんですよ!安物なのかな。
とりあえずセットはできましたから指示通り進んでください。」
一抹の不安を覚えながらも我々はハワイカイへと向かった。
ホテルの周りは一方通行が多く、慣れない右側通行のせいもあってさすがに
走りづらかったが(私が運転しているわけではないが)メイン通りにでると状況は
一変した。幅も広く見通しのいい道路がまっすぐに伸びていた。
高架に上ると信号もなく高速道路のようだった。
これが本場のフリーウェイか。日本なら700円〜900円ぐらいはとるだろうな。
車窓からハワイの景色を満喫しているとやがて自然に道路は地上に降りた。
何箇所目かの交差点に差しかかった時、ナビが目的地周辺だということ知らせた。
辺りを見回すと看板にハワイカイの文字をみつけた。
「あっ、そこ右に入ってください。」
私はマッサーさんに告げた。
車は道路わきの駐車場に入った。ここでまず目に入ってきたものは広場に
並べられた信じられない数のOC-6だった。
「明日の大会用かな?」私は聞いた。
「違うだろう。スタートはモロカイなんだから。」マッサーさんは答えた。
確かに明日の大会に出るなら今ここにあるのはおかしい。
よく見るとOC-6の並べてある奥にある小屋にOC-1やサーフスキーがぎっしり
詰め込まれているのが見えた。
なる程ここではこの光景はごく日常的なことなんだなと理解した。
この駐車場はそのまま海につながっていた。
日本ではどんなに海に近い道路でも堤防があったりして海岸に出るにはそれなりに
歩かなくてはいけないが、ここは海面から駐車場まではせいぜいブロック2段ぐらいの
高低差しかなかった。しかも幅のひろいスロープまである。
「こりゃあ便利だなあ。」
マッサーさんも感心していた。
確かにアクセスの良さだけではなく、トラックでも十分に停められそうそうな広々した
スペースや、船を洗う為のものだろう長いノズルのついた水道まである。
国内のマリンレジャー施設にもひけをとらない、いやそれ以上だ。
しかも売店など一切ない。きっと普通に近所の住民が利用しているに違いない。
その証拠に眼前の海面にはあっちこっちにサーフスキーやOC-1の姿があった。
きっと現地の人にとっては近所の公園に散歩にでも行くような感覚で海を楽しんでいる
だろう。日本ならOC-1はおろかシーカヤックにだってめったにお目にかかれないのに
なんて素晴らしい環境なんだ。
画面に収まりきら ない数のOC-6!
国内ではまず お目にかかれない 光景です。
奥に見える小屋にも ギッシリ詰まって います。
あのモロカイのゴール地点としては少々控えめな感じで拍子抜けした感はあったが
当日ともなれば出店やノボリやらが出てさぞ賑やかことだろう。
それにしても前日だというのにまるっきりそれらしい雰囲気がないなあ。
マッサーさんも同じ考えを持ったのか、もうちょっと辺りを散策してみようという
ことになった。
車を駐車場の外の広場に停めてあったので駐車場の方へ持ってくることにした。
「ダッチ君も運転したいだろう。いい経験なるで。」
そう言ってマッサーさんは私に車のキーを差し出した。
「自分が面倒くさいだけでしょ。」
「何で、わかるのっ?!」
「そりゃわかるよっ!!」
素直に車とってきてって言えばいのに。何であんな園児みたいな事いうのかな?
そんなことを思いながら車に乗り込んだ。
左ハンドルはやっぱり違和感があった。駐車場が広くてよかった。
国内の狭い駐車場では車幅感覚がつかめず苦労したことだろう。
バックをしようと思っていつもどおりに後を振り向いた時 ごつっ!
頭をドアの窓ガラスにぶつけた。いつものクセで左に振り向いてしまったのだった。
ありえない話だと思われるかもしれないが普段無意識にしている
動作はとっさに出てしまうものなのである。
車を駐車場に停めマッサーさんのところへ行った。
「それらしいものはあった?」
「いや。」
「本当にここなの?」
「それは間違いない。出発前にイっちゃんに聞いたから。明日になれば
ゴールの旗なんかが出るからわかるだろう。」
きっとハワイの人達はここの風土同様ゆったりとした性格なんだろうと
いう結論になり。今日のゴール地点下見の任務は完了となった。
(Written by ダッチ)
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