いつまで続くんだこの旅行記は?とお思いの方も多いと思いますが、もうしばらくお付き合いの程よろしくお願い致します。それでは西表旅行記6、始めさせていただきます。

5/24(昼すぎ)
 いよいよ復路レースのスタートが近づいていた。寝ていたみんなもゾンビの如くユラユラと起き
あがりはじめた。 先程のレースでおバカ漕ぎをした二人は往路以上に気合いがはいっている様子。
そして、もう一集団気合いが入っている、いや入れられている集団があった。
 それは地元のアウトフィッターの若い衆だった。リーダであるパピヨンの山元さんの激が飛ぶ。
「いいかお前ら!ラーメン屋なんかに負けてんじゃねーぞ!今度負けたら店に修行に行け!!!」
彼らは往路レースで、片桐さんに負けてしまっていたのだ。それを側で聞いていた片桐さんは
「じゃあとりあえず、餃子作り手伝ってもらおうかな。」とニコニコしながら言った。もちろん冗談で言っているのだろうが、確か近々3周年記念で餃子の安売りをすると昨日お店にチラシがあったような・・・・
うーん、案外現実的かも。
 スタートの時間となったが、まずは「のんびり組」からのスタートになる。紹介が遅れたが今回のレースは「レース組」と西表の海を楽しむ事を主とした、「のんびりツーリング組」とに別れていて、誰でも気軽に楽しめるようになっていった。
 先程、我々を迎えてくれた鳩間島バンドのみなさんが今度は見送りに来てくれていた。
そしてスタートの合図が鳴ると演奏がはじまり、島の人たちは踊ってカヤッカー達を送り出してくれた。
 カヤッカー達は皆一斉にパドルを頭の上に掲げて大きく振ってそれに答えた。島の人たちと一体と
なったその光景は見ているこちらも感動した。
 こういう雰囲気はレースでは味わえないだろう。なんせスタートと同時にガムシャラに漕ぎまくって、周りの景色すら目に入っていないのだから。忘れていたシーカヤックの楽しみ方を思い出した。

 さて次はいよいよレース組のスタート。いくら先程の光景に感動したとはいえ、それはそれ!
のんびり組とは、うってかわって会場中に緊張感が張りつめる。
 様々な思いが交錯する中いよいよ復路レース、スタート!往路レース同様水しぶきをあげて一斉にカヤックが疾走する。今回は往路で後半バテたので前半はやや抑える作戦にでた。がそれがいけなかった。港出口がふさがれ、防波堤を出る時には先頭集団からかなり距離が開いていた。10mぐらい先にマッサー氏の背中が見えたので、なんとかくらいついていこうと思ったが、おバカ漕ぎをやめた氏に着いていくことはできず、徐々に差が開いていった。
 往路以上に復路はこたえた。どんどん他の艇に抜かれていく。なんともみじめだった。
(やっぱり鳩間島で休んどけばよかったかな)単純に自分の体力と技量がないだけなのだが、辛くなるとロクなことを考えないもので自分にいい訳をするようになる。あれだけ感動したというのに!
 3分の1ぐらいのところでバテバテになってしまい、キャッチした水を引ききることもできず、ただバシャバシャと漕いでいる状態だった。このままでは完全に折れてしまう。しかし唯一の救いがあった。
 それは地元の青年で片桐さんの知り合いと言うことで面識のあった武野さんが目の前にいたことだった。乗っている艇は注1)パフィン。条件は同じ負ける訳にはいかない。その気持ちだけが自分を突き動かしていた。
 しかし、差はジリジリと開いていく。ここで離される訳にはいかない。必死についていく。
 やがて武野さんの艇が左右にロールしはじめた。(疲れてきている。仕掛けるには今しかない!)
自分はありったけの力をふりしぼって、差を縮めにはいった。ここで気づかれてはいけない。
差が縮まる前に相手に加速されては精神的にこちらが折れてしまう。見えないよう、真後ろからせまった。やがて射程距離にとらえ、いっきに抜きにかかった。ここからはたたき合いである。とにかくここで負けたほうは、多分抜き返せないだろう。腕はすでにパンパンに張っていたが、自分が辛いときは相手も同じ様に辛いんだと言い聞かせ、漕ぎ続けた。2分ほどのバトルだったろうか、からくも自分が前にでる事ができた。
 やがてチェックポイントのバラス島が見えてきた。この島は世界的にも珍しい、珊瑚の死骸が集まってできた浮遊島で真っ白な島である。本来なら上陸してじっくり鑑賞するに足る島なのだが今はそれどころではない。島の上にはスタッフがいてマンタの形をした凧を上げようとしていたが、それもチラリと見ただけだった。(本当に今考えても、もったいないと思う。西表島までいってこの島を見ないなんて)

 この島を過ぎると残り3分の1。このままこの差を守りきらねば。しかし、あそこでたたき合いに負けたら精神的に折れてしまっているから、まず抜き返されることはないだろうと思っていった。
 事実、抜かれることもなく港へと帰ってきた。島の人や先にゴールした人たちが声援を送ってくれている。
 後は、ゴールの旗をつかめばおしまいだ。そう思った瞬間。背後に殺気を感じた。
後方にスプラッシュ音!誰かが、艇を降りて走りだした! やばい!自分は艇をひっくり返し倒れ込むように外に出るとそのまま、四つん這いになって砂浜を駈けた。先に旗をつかんだのは?!
 自分の手がわずかに、先に旗をつかんだ。本当にわずかな差だった。多分1秒ぐらいだったと思う。
そのまま二人とも砂浜に倒れ込んだ。その相手とは武野さんだった。
 あそこで抜かれてからもずっと着いてきていたのである。なんて強い人だろう。普通後半で抜かれれば一気に気落ちしてしまうというのに。あと少し気づくのが遅ければ負けていた。
 成績自体はあまりよいものではなかったけど最後にこんな接戦ができて、とても充実した気持ちだった。やはり、負けず嫌いの人とのレースはおもしろいや。見ていたギャラリーの人たちも、この競り合いは楽しめたようだった。
 先にゴールしていた片桐さんがビールを差し出した。それを受け取ると皆と乾杯して一気にのどに
流しこんだ。
「っかぁ〜!」五臓六腑に染み渡るっていうのは正に、こういう事を言うんだろうね。
この一杯の為だけにでもレースをする価値があるってもんだ。
どんなに、大金はたいったってこのレース後の極上ビールは味わえまい。
 極上の缶ビールを飲み干して、ハトマツーリングレースは終了したのだった。

どこが波乱含みの復路レースだったのか?それは次回にお話するということで。次回いよいよ完結!?

西表旅行記7へ続く
<用語説明>
注1)今回借りたチヌーク同様ポリエチレン製の艇。
   安定感、扱い安さに定評がある。

(ダッチ)



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